エピクロスの楽園

折角の人生、楽しく生きようぜ??

ちょっとした昔語り


(2018.08.26 岩見沢)


さっきさぁ、久しぶりに悪夢を見ちゃったんだよね。いや、別にほかの人から見たら悪夢でも何でもないのかもしれないけど、何ていうか、都合良く忘れていた事実を思い出させられたっていうか。いつの間にか「いい思い出」になったあの頃に抱えていた鬱屈した感情を掘り起こされて、ダイレクトに胸を揺さぶられたっていうか。久方振りに感じたコンプレックスと、「あいつらを見返してやりたい、自分を変えたい」という強い思い。そういえば、私にもあんな頃があったなぁって。この感情、忘れたままじゃダメだなぁって。だから、もう既に霧散しかけているそんな思いを、完全に忘れ去らないうちに、ここにしっかり記録しておこうと思った次第だ。


その夢は、具体的には「ムカつく奴を見返そうと策と手駒を用意して必死になるけど、結局失敗してしまう」というものだった。最終的に、相手を衝動的に半殺しにしてしまった私は慌てて隠蔽を試みるけれど、ポカミスを繰り返した末それもバレて……その地点で目が覚めちゃったからその後は知らない。にしても、女の子を恋愛感情を用いて操ったり、咄嗟の衝動で人間をボコボコにするなんて野蛮な行動、本物の私がやれる筈ないのになーって起きてすぐの時は思ってたけど……って、まーいいんだよ、そんな話は。


その夢に出てきた「ムカつく奴」はさ、中学時代の部活の同期だったんだ。いかにも田舎のなりヤンといった趣だったそいつは大して気も身体も強くない癖に口だけは一丁目に悪くて、私は内心彼を見下してたし疎んじてたけれど、彼に対しては何も反抗出来なかった。ただの「口の悪さ」に対して、どう対処していいか分からなかったからだ。理屈ではないから注意してどうこう出来るものでもないし、ならばと無視を貫こうにも、あの狭い人間関係の中ではどうしようも無かった。


そしてなにより、私は「人を憎み続ける事」が苦手だったのだ。その場その場では「ムカつく、打ち負かしてやりたい」と思っていても、その場が過ぎれば苛立ちや憎しみもケロッと忘れて、何事も無かったかのように過ごしてしまう。それを優しいと言われればそれまでだけれど、私はそんな自分がすごく情けなくて、「このままでは私が不利益を被るだけなのに……」と焦っていた。結局どうにもならなかったけど。


と同時に、私は自分の落ち着きのない態度を先輩たちにいつもからかわれていた。別に先輩たちが悪意を持ってそう言ったとは思わない、実際私は大概アレだったのだろうし。ただ、それが物凄く悔しくて、「変わりたい、こんな自分から卒業したい」もいつも思っていた。


狭い田舎のコミュニティにおいて、私の足りない部分は余計に際立って見えた。周りには、何不自由なく学校生活を謳歌している(ように見える)奴らがゴロゴロ転がっていた。一体全体、どうして私ばかりがこんな事で悩まねばならないのだと。何で私だけが、こんな苦境に身を浸さねばならぬのだと。


私をからかう奴らを見返してやりたい。当時の私はいつもそう思っていた。


そんな症状は、どうやら大概ADHDに由来するものらしいことは、精神科に通うようになってから徐々に分かってきた。発達障害……結局すべてはその言葉で片付けられる話でしかないのだろうか。私がそんな障害を持って生まれたのが悪い、と? 障害があるから「仕方のない」ことなのだ、と?


今は「障害ならば仕方ない」と何もしない事へ対する免罪符として使いがちだが、当時の私はそんな自分が嫌で嫌で仕方なくて、変わりたくて必死だった。もっと落ち着きがあって堂々と他人と接する事が出来る、そんなクールで大人な人間になりたくて、ひたすら藻掻き続けていた。その結果、中学時代後半にはクール……ではないが(天然ボケとか不思議ちゃんとか色々言われていた)、大人びた(?)秀才かつみんなの弄られキャラとしての役割を確立させてゆく訳だが、べつに自分の人間性自体は何も変わって無かったんだろうなーと今振り返ると思う。


高校に入ってからは、その「見返してやろう」という気概ら綺麗さっぱり消えてなくなり、ただ日々の時間を無為に浪費してゆくだけになってしまった。たぶん、やろうと思えば上手くやれたのだとは思う。実際、高校一年生の頃は結構仲良い奴もいたし、特別孤立していた記憶もない。でもコミュニケーションはやっぱり苦手で頑張ってもなかなか会話が続かなくて、そんな自分が嫌だったから、私はどんどん人を避けるようになっていった。自分の周りに壁を張って、自分から周囲に溶け込む事を拒絶した。その結果、学年が上がるにつれて、私は徐々に壊れていった。


これも多分、「ADHD傾向が強く人格に現れるようになった」と表現するのが正しいのだと思う。積もり積もったストレスのせいか私の理性は摩耗して、理性の制御から離れた障害者としての自分が大手を振って暴れ回っていたのだと。あの頃の自分がクラスでどういう扱いだったかは分からないが、明らかに私を嫌っていた人間を今でも何人もピックアップする事が出来る。まぁ動作も色々異常だったしね。


登校する事が死ぬ程辛かった。毎朝学校に行きたくない、行きたくないと譫言のように繰り返していたけれど、結局私は三年間ロクに学校を休む事が無かった。不登校になって人生のレールから外れても、自分の人生を建て直せるとは思えなかったからだ。「自分は所詮、レールすら降りる勇気すらない臆病者なのだ」とずっと自分に言い聞かせていた。


なりゆきで入った部活には、やはり同期は三人しか居なかった。そのうち一人もたぶん私と同じようなハンディキャップを抱えていたのか、やがて不登校になって滅多に学校に来なくなってしまった。


私は彼が酷く羨ましかった。心置きなく休んでいられるから。心配してもらえるから。「それでも、いいんだ」と思いながらも、私が彼の後を追うことは無かったけれど。


私が「メンヘラ」に対して酷く親和性を覚えるようになったのは、明らかに彼の存在が影響している。彼が居なければ、たぶん私は自傷行為に酔いしれたり、切った傷をTwitterに上げて喜んでたりはしていないと思う。何ていうか……当時の私は「彼より酷い行為をする」事に固執していたきらいがある。「お前でもこんな事したりはしないだろ?」と得意になっていた記憶があるし。


不幸である事がアイデンティティだったし、それはまぁ今もそうだ。でも結局、私の境遇自体はべつにありふれたものだったし、私より遥かに過酷な人生を送ってきた人間に対してマウントを取るのはどう考えてもおかしいので、「私って結局は至極普通な人間なんだなー」という諦めに最近は支配されている。私の自意識は、以前と比べると随分と小さくなった。これが、「おとなになる」って事なんだろうか。


面白みのない人間になってしまったなぁと思う。変な方向に力が入りっぱなしだったあの頃とは違い、今はどんなに頑張ってもすぐに身体から力が抜けるようになってしまった。でも、私という人間自体は、中学時代のあの頃からぜんぜん変わっていないのだと思う。中学時代コンプレックスに感じていたあれこれも、結局今でも引きずったままだ。大きく変わったのは、きっと周りの境遇だけなのだと思う。


私は今でも自分が大嫌いだ。コンビニの店員と喋る時すら挙動不審になってしまう自分が情けなくて嫌いだ。他人と関係を築く事が怖くて逃げ回ってばかりの自分が臆病過ぎて嫌いだ。現実を直視したくなくて、インターネットやアルコールに逃げ込んだり変な理屈をこねくり回して自己正当化を計ろうとする自分が浅ましくて嫌いだ。責任から逃れる為に、ADHD抑うつ状態を武器に抜け道を探そうとしてばかりの自分が滑稽で嫌いだ。


中学時代のあの頃は、そんな「嫌いな自分」を確かに変えようと確かに努力していた。けれど私はいつしかその努力を続けることを止め、「嫌いな自分」を直視しないで済むように、と自分を捻じ曲げ始めた。周りと上手く関係が築けなくて寂しいと嘆く自分を封じ込めるために、一人が平気な人間になろうとした。内気で落ち着きのない自分を覆い隠すために、周りの人間を人間だと思わないようにした。つらい自分を誤魔化すために、感情を誤魔化し押し殺す事を学んだ。


その結果出来上がったのが、今の私なのだ。


でも最近、また「変わりたいなぁ」と漠然と思うようになってきた。今の自分から脱却して、新しい自分に生まれ変わりたいなって。


見に染み付いたネガティブを消すのは相当に困難だ。変わりたいという私を邪魔するのは、不幸である事に価値感を抱くもう1人の私。前向きで健康的な私、というのは何の面白みもない気がしてどうにも気後れする。まぁ、私が大吉巧馬やアニマル浜口のような長ポジティブ人間に生まれ変わるのは無理だと思うけど。それでも、ある程度ニュートラルな状態まで自分を持ってゆく事は可能だと思う。


自由を武器に怠惰を選択しないこと。ニヒリズムを根拠に努力を否定しないこと。このふたつが、取り敢えず私が今実行しようとしている具体的な目標だ。


よりより人生を送ってやろう、なんて高尚な考えまでは持ち合わせてはいないけれど。それでも、もっと味のある人生を送りたいなって、今はそう思っている。


なんてキザっぽく吐いてみたところで、そろそろこの記事を締めたいと思う。最近はブログの内容にあんまり合ってない気がして使ってなかったけど、久しぶりにこの言葉を結びとして使ってみよう。


皆さまの人生が、少しでも楽しいものにならんことを。


では、また。














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