エピクロスの楽園

折角の人生、楽しく生きようぜ??

女装サロンに行った話【Cotton 中目黒】


男性から脱却するために女性ホルモンを打ち始めてもう三年以上になるけど、私は今まで女装というものをやった事が無かった。理由は簡単だ、「女装が似合わない自分」を直視するのが怖かったからだ。


本格的にトランスに踏み切ったころ、私は第二次性徴が丁度終わった辺りの19歳と数ヶ月で、当然骨格の形成はほぼ完了してしまっていた。「男」としての骨格に、だ。まぁ身体はコルセット矯正やらガードルやらでまだどうにかなるのだが、一番困るのは純女と比べると明らかなごつくなってしまった頭蓋骨だ。眉間やエラは髪の毛や化粧をある程度誤魔化しても、どうやっても男っぽさが消えない。特に太陽光の下に居る時は露骨に男っぽさが浮き出てしまう。これはもう、手術をしないとどうしようもない。でも高額な手術を受けられるだけの資金を貯めようと努力するのはきつい。仕方ない、諦めよう……


と決心したはいいものの、私の女装への欲求が収まっていた訳ではなかった。以前この記事でも書いたバ美肉おじさん達のようにバーチャル世界で美少女になるのもいいが、私はあくまでリアル美少女になりたいのだ。勿論そのハードルが高いのは分かっている。それでも、私は美少女になってみたいのだ!!!


そんな思いはあるフォロワーさんとのきっかけで爆発し(それが何だったから忘れた)、私は勢いに任せるまま中目黒の"Cotton"という女装サロンに予約を入れたのだった。


私の素顔はどーせCottonの公式サイトにメイク動画付きでアップされると思うので、気になるならそちらを見てみれば如何だろうか……別に自分の顔が特別不細工だとは思ってはいないが、全てのパーツがなんとなく歪んでいて滅茶苦茶気にしている。何故か開けにくい右目、微妙に左に寄った鼻、何回修正しても歪んだ唇……


……どうにかならないものかね、これ。


さて。


Cottonは、こだめさんという女性が一人で運営している女装サロンだ。どうやらアパートの一室を改装して営業しているようで、インターホンを押す時は結構緊張した……他人の家に訪問し慣れていないので……ボッチなので……ハハ…


最初は秋葉原の女装サロンに行こうと思っていたが、なんとなく雑そうな感じがしたので(失礼)、上品っぽかったこちらに申し込んだ。お値段13000円と決して安くは無かったが、「ここで躊躇してたまるか!」という一念で申し込みボタンをポチッ。それからサロンに行くまでの数日間、私は「女装すれば、何かが変わるのではないか」という漠然とした希望を胸に、就活だの何だのというストレスフルな日々を耐え忍んでいた。全ては、この日のために。


ちなみに当日伺った話によると、就活中の大学生はちょくちょくサロンを訪れるらしい。やはりストレスに当てられた男性ほど女装に走りがちなのだろうか? そういう男性はごく一部なのだとは思うが。


女装により「本当の自分」になれた、という男性もいるようだけど……女装はそんな魔法みたいなものでもないと思うけどね、私は。


で、当日。


予約時間が近づくにつれ、私の心は徐々に恐怖によって侵食され始めていた。予約の一時間前に中目黒に着き、会場の周辺をふらふらしているうちに(なんとなくどこかの店に入る気力が起きなかった)、今まで薄れていたワクワク感は跡形もなく吹き飛び、胸を押し潰すほどの不安が私の心を逼迫してくる。私を苦しめていたのは、たった一つの懸念だった。


……もし、私が女装しても可愛くなれなかったら。


言ってみれば、女装は私にとってのケジメでもあった。もし自分の女装姿が「良さげ」であれば、今後女性としてのジェンダーを身に纏う事も考えていたし、もしその姿が酷ければ、そのような「ワガママ」は完全に捨て去ろうと決意していた。「男ではない」というアイデンティティをかなぐり捨て、ただの『男』として、この先の人生を生きてゆこうと。


……女性性を身に纏う事が不可能だと突きつけられた時、私が平静を保てるかは疑問だったが。


そんな、割と重めな事を考えつつサロンを訪れた私だが、実際にサロンに足を踏み入れた途端、そのような深刻な感情は現実感と共に雲散霧消した。サロンの内装のせいかもしれないけど、何だか頭がふわふわして難しいことはあんまり考えられなくなっちゃった。結局、それが一番良かったのかもしんないけど。でも、もっと吹っ切れたかったなー、と今となっては少し心残りかな。


私が選んだプランはメイクもコーディネートもお任せだったんだけどさ、実際に衣装を選ぶ段階になって「これ、どうですか?」とプッシュされたのが何故かメンヘラ系でさ。あ、メンヘラ系ファッションっつってもガッチガチなやつじゃなくて、赤ニットワンピというコスプレ感の強いやつ。「女性にモテそうな綺麗で大人っぽいお姉さん」を目指してて、どちらかっつーも女装のひとがよく着てるようなフリフリした女の子らしい衣装が苦手だった私はめちゃんこ面食らったけど、「メンヘラならまーいっかー」的なテンションでやってみる事にした。黒髪ボブでメイクガッツリなメンヘラって割と憧れではあったしさ。


んでメイク前にワンピに着替える訳だけど、これがなかなか地獄でさ……寧ろコスプレ感の強い衣装だったから良かったかもしんない、鏡で自分の姿見てもギャグっぽいなーで終わらせられるし。もしリアル志向の衣装だったら、この段階でココロ折られてた気がするわ。


あと、ブラを付けるのにはなかなか悪戦苦闘した。何か形がおかしいなーと色々紐を弄ったりホックをゆるめたりしてたけど、5分くらい経ってからやっとこさブラの向きが逆だった事に気付いてさー。そうだよね、ブラって上下あるもんね……めっちゃ繊細な衣類だもんね……


……いや、私もトランスの端くれなんで自前の胸がなくはないんだけど、普段ブラとか付けないからさ。ナベシャツで誤魔化してるしさ……だって、ブラを付けることに対して未だに「変態的」という印象が抜けきれないんだよね。あと単純に普段着で胸あるの困るし。


そんな感じで抱腹絶倒悪戦苦闘しつつもお着替えを完了し、パッドの位置を直して貰った後は、いよいよお待ちかねのメイクタイムの幕開けだ!! さてさて、私は一体どんな"女の子"に変身するのだろうか?!?!


……なーんてワクワクは特になく、現実感が家出して夢遊病者みたいになっていた私は、謎の平静さでもって化粧台の前にドッカリ腰掛けた。台の隣に置かれたゲージの中では、ピンク色のインコがパタパタと動き回っている。このインコ、ヒーリング検定の3段くらい持ってんじゃねーかな、とふと思った。


最初にピンクのマニキュアで爪をカワイく彩った後(これは追加プランなんだけど、せっかくだし塗りたかったんだよね)、いよいよメイクに取り掛かる。私は裸眼の視力がクッソ悪いから、自分の顔がどーなってくのかとかどんなメイクがされてんのかとか全っ然分かんなかったけど、メチャクチャな量と種類のファンデやら何やらが塗りたくられてゆくのはよく分かった。正直「ここまでやるのか!!」って感じだった。私普段から若干メイクやってるから「この技術をパクってやろう!」なんて思ったりもしてたけど、余りにも訳分かんないし真似られる気もしなかったしで早々にあきらめた。


こんなクッソ厚いメイクが映えるのか……? もしかして私の顔、マジなお化けみたいになっちゃわないか??


そんな不安を若干抱えつつ、下瞼をサッとブラシが横切る時に目を閉じてしまわないよう必死に耐えたり(何気にこれがきつかった)、録画中のスマホに向かってどんな顔を作ればいいんだろう、なんて悩んでとりま唇を噛んでみたり。メイク中に、サロンに来るお客さんの話とか、私が今ハマっている『さらざんまい』という奇っ怪かつ崇高なアニメの話とかやった覚えはあるけど、相変わらず意識はふわふわだし眼鏡かけてないから視界もフワフワだし隣のインコはパタパタだし、ふわふわ、パタパタ、ふわふわ、パタパタ、ふわふわ、パタパタ……


……あ、メイク終わったっぽい。


最後に新品らしいウィッグを被せて髪型を整え、いよいよ変身した『私』とご対面。私の脳内でテケテケテケテケとドラムロールが流れ始める。漫画でよくある「こ、これがボク……?」という状態に、果たして私も陥ってしまうのだろうか?!



……はい、こんなんなりました。


最初に自分の姿をまじまじと見詰めた感想は、「メイク、思ったより薄いな」だったんだよね。や、だって明らかにツケマが重ね貼りされてたからさ。もっとゴスロリの人みたいなフチ取りがめっちゃ濃い目元になってるかと思った。


でも結局、私は私なんだなーって。正直、一枚目の写真を見た時には想像以上に完成度が高くてびっくらこいた。「私ってここまで盛れるのか……メイクってすげーな、こだめさんやべーな!!」としばらく盛り上がって、Twitterにこの写真を乗せて承認欲求モンスターと化したメンヘラになりかけもしたけど、ただ明らかに私の面影はあるし、素直に「うわ、可愛い……!」とはならないのが現実。自分の事うっすらAG(オートガイネフィリア、自分の女装姿に興奮する人間)なのかなーと思ってたけど全くそんなケはなかったし、寧ろAGの思考回路が分からなくなった。


そんな自分の女装姿に感動したりするものなの……? ていうか、何でこの姿が「本当の自分」だという思考回路になるの?? だって、どう見てもこれは自分じゃない??? 一体自分の女装姿に何を見出してるの??????


ちなみに、ここに上げた写真以外に思いっきしぶりっ子してるやつとかもあるんだけど、自分で見返して「うわ、地獄だ……」と思っちゃったんでここには載せません。正直気持ち悪いので見返す事すら嫌です。はぁ、私に可愛い女の子の身体があれば……


ま、そうやって丁寧にメイクして顔を作り込んでも、落とす時は本当に一瞬だったね。たっぷりのオイルが手に取られ、顔をひたすらスリスリと。まるでジャガイモにでもなった気分だった。皮膚、ニキビ跡で若干デコボコしてるしさ。


結局、普段着に着替えてサロンを出ても、現実感は戻ってくる気配が無かった。ただ、スマホのフォルダに残った自撮りだけが、私に「さっきまで女装していたのだ」という実感を齎してくれた。まさか周りにいる人、私が女装帰りだなんて夢にも思わないだろうなぁ……でも私、そういう人間なんですよね。


結局、今回の女装によって私の中で何らかの変革が起こる事は無かった。私が変な期待し過ぎただけだと思うけどさ。今後私がどういう生き方をやってくかなんて、今回の一件だけで決めきれるモンじゃないしね……。


「男らしく」いる事は苦痛だが、だからと言って「女らしく」いたい訳ではない。確実にない。結局性別二元論が強固に定型化した現代社会では私みたいな人間は非常に生きづらいし、就活活動の真っ最中である今、「型にはめられること」の苦痛は身を以て実感している。でも、だからと言って何がしたい、どうなりたいという気概もないしなぁ……好きなメタルバンドや神聖かまってちゃんのの子みたいに「世界なんてクソ喰らえや!!」的なテンションで生きて行きたいもんだけど、すぐに疲れちゃいそうだしさ。


ジェンダーに安住している方が楽なのは確かなのだ。もう、それで満足しているのが一番いいのかな。ただ、また気が向いたら女装するかも知れないし、軽く整形も済ませてシレッと女として暮らしているかも知れない。ま、それは今後の私次第ということで。


それでは今回の記事はここらへんで終えるとして、最後に一番良さげな自撮りを一枚貼っておこう。メンヘラっぽいかなーと思って中指を立ててみたけど、ネイルで爪の短さが露呈しててちょって悲しい。サロン行く前日に爪切んじゃ無かった……



皆さまの人生が、少しでも楽しいものにならんことを。


では、また。













にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 性同一性障害(MtF・MtX)へ
にほんブログ村

follow us in feedly